「この前治してもらった左上の歯が痛いんです」。治したばかりの歯が痛いと言われると、歯医者は内心ひやっとします。何か見落としたか、詰め物が高いか、ひびが入ったか。
調べても、何もない
叩いても痛くない。詰め物に破損もない。噛み合わせも問題ない。治療した歯に、犯人の証拠がありません。
ところが、お話を伺っているあいだ、患者さんが何度か鼻をすすっている。あれ?
尋問
「走ると痛みますか」「はい、走ると痛いんです」。では、と聞きました。
「階段を降りるときはどうですか」
「はい、響くみたいな痛さが」
これで、ほぼ決まりです。
正体
パノラマレントゲンで上あごの奥を見ると、本来は空洞で黒く写るはずの上顎洞(鼻の横にある空間)が、白く濁っていました。上顎洞炎、いわゆる副鼻腔炎です。「お前かー」というやつです。
上の奥歯の根は、上顎洞の床のすぐ下にあります。副鼻腔炎で中に膿や粘液がたまると、その重みと圧が歯の根に伝わって、歯が痛いように感じる。走ったり階段を降りたりして体が上下に揺れると、中の液体が動いて根を突くので、「響く」痛みになります。治したばかりの歯は、たまたまその場所にあっただけの、無実の歯でした。
見分け方
- 上の奥歯が、一本ではなく何本かまとめて痛い、うずく
- 走る、階段を降りる、おじぎをすると響く
- 風邪のあと、鼻づまり、鼻水、頬の重さがある
- 歯を叩いても、噛んでも、はっきりした痛みはない
対処
歯の治療ではなく、副鼻腔炎の治療です。耳鼻科へご紹介します。歯の側からできることは、「歯が原因ではない」と見抜いて、歯を削らないことです。
逆に、歯の根の先の炎症が上顎洞に広がって副鼻腔炎を起こすこと(歯性上顎洞炎)もあります。その場合は歯の治療が必要になるので、どちらが先かは、当院では歯科用CTで確認して判断します。
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