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歯科探偵(2)容疑者が三人いて、真犯人は半年後に自首した

「左下の奥が痛い」。この一言から始まった、探偵が一度は犯人を取り違えた話です。

容疑者その一:親知らず

レントゲンを撮ると、左下に埋まった親知らずがありました。歯ぐきを押すと、わずかに膿が出る。「ここかな?」と思いました。ところが、押しても痛みは増しません。膿は出ているのに、訴えの痛みとはどうも結びつかない。

容疑者その二:クラウンの歯(7番)

手前の奥歯には、以前に被せたクラウンが入っています。叩いても痛くない、噛んでも痛くない。レントゲンにも影はない。この時点では、嫌疑なしと判断しました。

容疑者その三:インレーの歯(6番)

その手前の歯には古い詰め物(インレー)が入っていて、合いが悪くなっていました。探針で触ると、浮いて取れた。「ここかぁ」。詰め物の下が崩れていれば、噛んだときの違和感や痛みは説明がつきます。

親知らずの周りを洗浄して薬を出し、6番の噛み合わせを調整して様子を見ると、痛みは引きました。インレーを作り直して、一件落着。そう思っていました。

半年後

その患者さんが「最近、噛むときにちょっと違和感がある」と再来院されました。調べると、今度は7番だけに叩いたときの痛みがあり、レントゲンで根の先に黒い影(透過像)が出ていました。歯の神経が死んで、根の先に炎症が及んでいたのです。

半年前に「嫌疑なし」とした歯が、真犯人でした。

なぜ見抜けなかったか

クラウンの下で、歯の神経はゆっくり死にかけていたのだと思います。死にたての神経は、叩いても痛くないし、レントゲンにも影が出ません。根の先に炎症が広がって、骨が溶けて、はじめて影として写る。初回の時点では、どの検査にも証拠を出していなかった。見抜けなかったことは、正直に申し訳ないと思っています。

ただし、余計なことはしなかった

振り返って、一つだけ良かったことがあります。確証のない7番を開けなかった。親知らずも抜かなかった。やったのは、親知らずの洗浄と投薬、噛み合わせの調整、合わないインレーの作り直し。どれも、あとから取り返しのつく処置だけです。

もし初回に「たぶんここだろう」で7番のクラウンを外して神経を取っていたら、結果としては当たっていたかもしれません。でもそれは当てずっぽうで、外れていれば健康な歯を一本だめにしていた。確証がないときに、戻せない手を打ってはいけない。

教訓

  • 怪しい歯が複数あるとき、一つ治って痛みが引いても、終わりとは限らない。本当の原因が静かになっただけのこともある
  • 神経が死にかけている歯は、ある時期、どの検査にも引っかからない。「何もない」は「今は証拠がない」という意味で、「犯人がいない」という意味ではない
  • だから、確証のない歯は削らない、抜かない。取り返しのつく処置だけで様子を見る。真犯人は、時間が経てば自分から証拠を出してくる
  • 治ったあとの「ちょっと違和感」は、遠慮なく来てください。半年後の違和感は、探偵にとって最高の手がかりです

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