これまでの話は「調べても何もない」事件でした。今回は逆で、調べたら何もかもあった事件です。
容疑者だらけ
「左上が痛い」と来院された患者さん。診ると、むし歯がある。歯周病もある。知覚過敏もある。どれも本物で、どれも痛みの原因になりうる。探偵としては楽な事件に見えました。順番に片づければいい。
全部治した
むし歯を治し、歯周病の治療をし、知覚過敏の処置をしました。口の中から、痛みの原因になりそうなものはなくなりました。
それでも、痛い。
残ったもの
口の中に、もう容疑者はいません。それなのに痛みが残るなら、犯人は口の中にいない。当院でできることはここまでと判断して、大学病院へご紹介しました。
大学病院からさらに別の科へ再紹介され、そこで見つかったのは、心臓の冠動脈の狭窄でした。心臓の血管が細くなっていたのです。
なぜ歯が痛むのか
心臓からの痛みは、心臓そのものではなく、左肩、左腕、あご、歯に「飛んで」感じられることがあります(関連痛といいます)。狭心症の症状が、歯の痛みとして出ることがあるのです。多くは左側で、下あごのことが多いとされますが、この方は左上でした。
この患者さんの場合、むし歯も歯周病も知覚過敏も本物でしたから、歯の痛みと心臓の痛みが重なっていて、歯を治すまでは心臓の分が見えなかったのだと思います。
教訓
- 容疑者が多いときほど、全部片づけたあとに「それでも残るか」を確かめる。治療が終わったら痛みも終わる、と決めつけない
- 口の中の原因を全部取り除いても痛みが残るなら、それは口の外からの痛み。歯医者が粘る場面ではなく、つなぐ場面です
- 歯の痛みで、動いたときに強くなる、胸や肩の重さを伴う、片側のあごに広がる、といったことがあれば、歯科だけでなく内科にも相談してください
この方は、歯の痛みがきっかけで心臓の病気が見つかりました。歯が痛んでくれたおかげ、と言うと変ですが、そういうこともあります。
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