「右上が痛い」。患者さんがそう言うなら、歯医者は右上を調べます。当たり前です。ところが今回は、それが罠でした。
右上には、何もない
右上の歯を一本ずつ調べました。むし歯なし、叩いても痛くない、噛んでも痛くない、レントゲンにも影はない。首をひねりながら見直しても、悪いところが見つからない。
一方で、右下の4番(小臼歯)には、むし歯がありました。ただ、患者さんが痛いと言っているのは右上です。上と下、場所も離れている。
尋問:エアー
右下のむし歯に風(エアー)をかけてみると、痛い。これは予想どおり。むし歯なのだから痛くて当然で、それだけでは右上の説明にはなりません。
尋問:麻酔
そこで、右下の4番に麻酔をしました。すると、右上の痛みまで消えたのです。
右上の痛みは、右下のむし歯から「飛んで」きていた痛みでした。関連痛といいます。歯の神経は、上下とも同じ太い神経(三叉神経)の枝で、脳は「どの枝から来た痛みか」を時々取り違えます。下の歯の痛みを、上の歯の痛みとして感じてしまう。それにしても、これほど離れた場所に飛ぶのは珍しい例でした。
麻酔は、診断の道具でもある
麻酔は治療のためだけのものではありません。怪しい歯を一本だけ麻酔で黙らせて、痛みが消えるかどうかを見る。消えれば、その歯が犯人です。「痛いと言っている場所」ではなく、「黙らせたら痛みが消える場所」が、本当の原因です。
教訓
- 患者さんが指さす場所は、痛みを感じている場所であって、原因がある場所とは限らない
- 「痛いほうに何もない」ときは、反対側や上下に、何かないかを探す
- むし歯のある歯は、たとえ本人がそこを痛いと言っていなくても、容疑者の筆頭です
右下のむし歯を治して、右上の痛みは消えました。右上の歯は、何もされずに済みました。
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